る、その第一の美女である。私は、たしか数年間も、ひそかに彼女の美しさに、心惹かれていたが、口を交わしたことは、ただ一度だけである。それも、壱岐のある港町の船着き場の人波の中で、私が乗船しようとしていたとき、彼女は、その同じ汽船から上陸して来た、ほんの行きずりに、一言、二言、ただそれだけであった。
運命のいたずらであったか、彼女が私に結婚希望の意志を表示したとき、私はそのほんの一ヶ月前に、いまの妻と結婚していた。この第一の美女の求婚を拒否したことの
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