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祖の地であるというようにも思ってみたこともある。

 去年、私の本籍は、東京に移した。今、住んでいるところを、本籍としたのである。北大⁽³⁾を、定年退職し、その退職金で陋屋⁽⁴⁾をそこに建てたので、もう今から、ここをはなれて住むこともあるまいと思ったからでもあるが、自分自身や子どもらの入学、退学、就職の度毎に、遠いところの本籍地の役場の厄介になることの面倒さから、のがれるためが主である。それまでは、津島に本籍があった。叔父も、戸籍手続きの、一時の便宜のために、桑名から津島にうつしたのが、そのままに恐らく四、五十年間も、つづいていたのかも知れぬ。私は、今まで現住所と、本籍が別であるために、子らの学校に入学したり、その他、いろいろのことで、どんなに厄介に思ったかわからない。私は、ほとんど戸籍のことだけで、津島に関係をもっている。けれども、長い間、私の本籍地であった。

​私の郷里

​P56

【注釈】

3)北大:北海道大学

4)陋屋(ろうおく):建物の質が低く簡素であること。

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