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も、外国に渡ることは容易ではなかったのである。

渡航の機会を待ちながら、父は長崎県庁の小役人⁽¹⁾をしていた。壱岐の郡庁の役人たちは、長崎の県庁に行く機会は多かったので、父とも親しくなり、そんな関係から、母の家に父が迎えられるにいたったのであるが、その詳しいいきさつについては、あまり深くは、私は知らぬ。祖母の口から、断片的に聞いたことはある。壱岐の郡庁の役人のとりもちで、県庁の小役人をしていた父がくるようになったことだけは、たしかである。

 父は、養子としては、良い養子ではなかった。何よりもよくなかったことは、母の生家の財産を、ほとんど亡くしてしまったことである。けれども父が財産を蕩尽⁽²⁾したのは、決して浮いたことからではなか

​父(私の父と妻の父)2

​P33

【注釈】

1)小役人:現代で言う「地方公務員」

2)蕩尽(とうじん):使い切ってしまい、残りがない状態。

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