対馬の厳原に転校して、私はまったく新しい世界に入った。当時、厳原の少年たちの間に君臨していた、最高の暴力者の蔵瀬という青年に、私を紹介してくれた人があった。転校した直後である。彼はつねに樫の木の、太いステッキをつき、頭髪を長くのばし、一見して、人を圧する風貌をしていたが、人はいたって善良で、私は彼を全く実の兄のように、親しみ愛していた。私は彼が喧嘩するのを、見たこともなく、乱暴しているのを見たこともない。けれども、彼はきわめて、大胆で、人の意表に出ていたことを、しばしば行ったので、
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