清潔で、貴品さえもっていた。ただ彼は、人の及びがたい胆力と腕力をもっていたことは、たしかのようであるが、それとても、私はそのことを、人より伝え聞いたに過ぎない。彼は、けっして乱暴なことをしたり、無慈悲なことをしたりする人では、けっしてなかった。いわば、不戦勝の勇者であり、鞘におさめた名刀の保持者であった。
蔵瀬が入学したあとも、私は高等小学校を卒業するまで、ずっと平安な生活をつづけることができた。またそのころは、私の見渡す世界には、いやな少
P88