であったのです。小さい胸を痛めて、一人で考え、一人で決心したのです。高等小学校から一緒に中学にやってきた友人が、中学校のまだよく慣れぬ校庭で、小声でいった言葉も、そのときの、彼の表情も、六十歳過ぎた今でも、はっきりと私の記憶に残っています。
「オ、今日は手袋はずしたんか。それがいいよ。」
尋常小学校から、ずっと一緒だったこの友人も、手袋を取った私の右の手を、じかで見るのは、今が始めてだったので、いくども視線をそこに向けていました。その日一日は、私には、ずいぶん長く感ぜられました。家に帰って、手袋なしで登校したことと、これからはずっと手袋なしで登校